説明
中国の家族変動については、国の政策が大きく影響していることが特徴的である。計画経済期の「単位」社会から改革開放政策以降の社区建設へ、また一人っ子政策の実施と終焉、これらの政策の転向は人々の家族構成、世代間関係、家族アイデンティティに影響を与えることは言うまでもない。そこで本稿では一人っ子政策および改革開放の二つの政策の下で生まれ、育てられ、「小皇帝」と名付けられた「80後」(バーリンホウ世代)の生殖家族を研究対象にする。子どもを持ち、大人になった「小皇帝」の生殖家族の以前の世代との異同を考察し、社会主義的近代および圧縮近代を経験する中国の家族変動の現在に着目する。80後家族の比較対象として、70後家族の分析も行い、彼らの仕事、家事と育児の現状、抱えている葛藤、行われた調整を中国現代社会のひとつの縮図として提示することとした。
目次
序章
第1節 問題背景
第2節 概念の説明―性別役割分業に関する意識と行動
第3節 研究目的と意義
第1項 リサーチクエスチョン
第2項 本研究の新規性
第4節 本書の構成
第1章 中国家族の歴史と現状
第1節 中国の家族形態と世代間関係:歴史と現状
第1項 中国の家族形態の変遷
第2項 中国の家族形態の現状
第2節 1949年新中国以前とそれ以降の家父長制
第1項 1949年新中国以前
第2項 1949年新中国以降の社会主義建設初期
第3項 改革開放以降
第3節 現代のジェンダー意識及び女性の社会地位
第2章 先行研究:80後の現在と本研究の位置づけ
第1節 80後の由来
第1項 80後の定義
第2項 比較対象としての70後
第3項 国・家族・個人の関係の変化
第2節 80後の就業と家事・育児
第1項 80後の就業環境
第2項 80後の仕事と家事・育児の関係
第3節 80後の家族―近代化における家族変動
第1項 80後研究
第2項 80後家族と中国近代化における家族変動
第4節 近代家族論の可能性と本研究の位置づけ
第1項 アジアの近代家族論
第2項 中国の社会主義的近代における家族変動研究
第3項 本研究の位置づけ
第3章 調査概要と分析方法
第1節 調査の概要
第1項 調査対象者
第2項 調査地
第3項 調査期間と調査手順
第4項 調査方法と調査内容
第2節 分析方法と語りの引用
第1項 分析方法
第2項 語りの引用
第4章 80後女性の役割遂行と意味づけ
第1節 80後女性の役割遂行の状況
第1項 リベラルな役割分担
第2項 女性中心の家事・育児分担
第2節 80後女性の役割の遂行における葛藤
第1項 仕事と家事・育児の葛藤
第2項 夫婦間の葛藤
第3項 親族との間における葛藤
第4項 心身の葛藤
第3節 役割遂行の意味づけと正当化におけるマネジメントと資源
第1項 家事・育児役割と稼得役割の意味づけ
第2項 考え方の是正による葛藤の正当化
第3項 役割におけるマネジメントと資源の活用
第4節 80後女性のライフスタイル及び夫との相互作用
第5節 70後女性との比較
第1項 役割分担の現状について
第2項 役割分業における葛藤
第3項 家事・育児役割の意味づけと葛藤の正当化
第4項 まとめ―80後女性ライフスタイル選択過程の特徴
第5章 80後男性の役割遂行と意味づけ
第1節 80後男性の役割遂行の状況
第1項 リベラルな家事分担
第2項 育児参加の欠如
第2節 80後男性の役割遂行における葛藤
第1項 仕事と家事・育児の葛藤
第2項 夫婦間の葛藤
第3項 親族との間における葛藤
第3節 役割遂行の意味づけと正当化に用いる規範と資源
第1項 家事・育児役割と稼得役割の意味づけ
第2項 考え方の是正による葛藤の正当化
第3項 役割におけるマネジメントと資源の活用
第4節 80後男性ライフスタイル及び妻との相互作用
第5節 70後男性との比較
第1項 役割分担の現状について
第2項 役割分業における葛藤
第3項 家事・育児役割の意味づけと葛藤の正当化
第4項 まとめ―80後男性のライフスタイル選択の特徴
第6章 結論と考察
第1節 分析結果のまとめ―80後夫婦の役割遂行における相互作用
第2節 分析結果のまとめ―80後の仕事と家事・育児の現在
第3節 本研究の結論
第1項 80後家族のライフスタイルの選択過程の特徴
第2項 80後の社会主義的近代化における家族変動
第4節 本研究の示唆と意義
第1項 学術的示唆
第2項 政策への示唆
第3項 教育・実践への示唆
第5節 本研究の限界と今後の課題
第1項 中国社会の多様性、家族問題の多様性への目配り
第2項 家事・育児に関する夫婦間の相互作用自体への目配り